【広告クリエイティブの細かいところ。認知科学を使ったCVR・CPA改善】〜その7〜【後編】メタモデルとミルトンモデル
前回の記事では、1回目投稿でお伝えしたT.O.T.Eモデルとメタモデルを使い、人の情報変換パターン=どのように情報を認識して内省(心との対話)をするかなどをお伝えしました。
今回は「意図的に心を動かす方法」と「ターゲットユーザーの衝動を刺激する」技術に焦点を当て、メタモデルの「逆」とも言えるミルトンモデルについて詳しく解説します。
ミルトンモデルとは?
ミルトンモデルとは、催眠療法家で「天才」と称されるミルトン・エリクソンが使用していた特有の言語パターンおよび非言語パターンを指します。
このモデルは、相手の意識的な抵抗を避けつつ、無意識に影響を与えるコミュニケーション技術です。
エリクソンは、解決が難しいとされる問題を抱えるクライアントに対して、この技術を駆使して現実に適応できるよう支援しました。
メタモデルの広告活用(おさらい)
ミルトンモデルをわかりやすく理解するため、再度メタモデルの図を使い、メタモデルについて簡単におさらいします。
NLPのメタモデルは、相手(情報発信側)の発言を既に「変換」されたものとみなし、この変換プロセスを「削除」、「歪曲」、「一般化」のパターンでモデル化しています。
特にカウンセリングの文脈では、これらの情報変換パターンを明確化するために具体的な質問を用いることがあります。
このアプローチにより、誤解を解消し、相手の真の意図や感情、信条を深く理解することがNLPにおけるメタモデル利用の目的です。
そして広告制作においては、広告主がターゲットユーザーの非言語情報(例えば顧客心理やペルソナ)を踏まえ、メタモデルの考え方を応用した(意図的に情報を削った)広告のコピーとデザインを作成し、受け手であるターゲットユーザーが、この広告を見た際、自らの知識や経験に基づいて情報を処理(思い出したり、想像したりする)を促し、広告主の意図を正しく理解してもらうことをことを目指す使い方をします。
ミルトンモデルの広告活用
ミルトンモデルは、メタモデルの「変換」プロセスを意図的に操作して相手の意識的な抵抗を取り除き、無意識に影響を与える催眠誘導手法です。
この手法は、メタモデルの変換プロセスである「削除」、「歪曲」、「一般化」を意図的に使いこなすことにより機能します。ミルトン・エリクソンは、これを駆使して様々な状況で効果を発揮しました。
広告コピーでミルトンモデルを活用する際には、その使用方法によって公正競争や広告に関する法規制に触れる可能性があるため、注意が必要です。
以下で、ミルトンモデルの主要な手法とその具体的な適用例について説明します。
【1】曖昧さの活用
広告コピーにおいて言葉を敢えて曖昧にすることで、顧客が自分自身の希望やニーズに基づいてメッセージを解釈することが促されます。
例えば、「あなたの完璧な未来を想像してください」というタイトルフレーズは、顧客に具体的なシナリオを自由に想像させ、製品やサービスに対する個人的な関連付けを強化します。
【2】埋め込み命令の導入
コピー中にさりげなく命令形を用いることで、顧客が無意識のうちに行動を起こすよう促します。
例として、「この機会に明日を変える勇気を持ってください」というCTAコピーは、「明日を変える勇気を持つ」という行動を暗示し、積極的な行動を引き出します。
【3】言い換えと再定義によるポジティブなイメージの形成
ネガティブな単語をポジティブなものに置き換えることで、製品の受け入れや興味を引き上げます。
例えば、「この挑戦を楽しもう」という言葉は、「問題」を「挑戦」として捉え直し、前向きな印象を与えます。
【4】一般化を利用した共感の喚起
広告で一般的な真実や普遍的な感情に訴えかけることにより、広い範囲の顧客にアピールします。
「誰もが質の良い生活に値する」という言葉は多くの人々の同意を得る可能性が高く、誰にでも当てはまる訴求内容です。
【5】文脈の削除による広範な適用性の提供
具体的な文脈を省くことで、顧客が自身の状況にメッセージを適用しやすくなります。
「解決策がここにあります」と言うと、顧客はその「解決策」を自らのニーズに関連づけて考えることができます。
【6】比喩とストーリーテリングによる感情的な繋がりの創出
物語や比喩を用いて、製品やサービスの価値を間接的に伝え、顧客の感情に訴えかけます。
例えば、「このコーヒーはあなたを新しい冒険へと誘います」というフレーズは、日常のコーヒー体験を刺激的な物語に変えます。
ポイントは「嘘」をつかず「攻める」こと
ミルトンモデルは、意図的に曖昧な表現やストーリーテリングを使用し、相手の内面の情報を引き出すとともに、都合の良い解釈をしてもらうよう誘導する催眠誘導手法です。
この手法は無意識の心に働きかけ、認知科学の分野で非常に強力なモデルとして認識されています。
また多くの広告コピーでは、ミルトンモデルのような手法が意識的に用いられていることがあります。
例えば、信用を得るために意図的な表現を使う、特定の情報に焦点を当てて全体の印象を操作する、あるいは不利な情報を伝えないなど、これらの手法は広告業界において一定の認識と容認があるために成り立っています。
また、広告がこのようなアプローチを採ることは、制作側と受け手双方にとってある程度理解されている事実であり、ある程度景表法などのルールで認められている状況です。
そのため、良質なセールスコピーは、嘘をつかず、相手を騙さないという絶対条件を守りつつ、限界まで効果的な訴求を作り出すことが重要です。
このバランスを取ることが、プロの思考回路の核心部分ではないでしょうか?
生成AIでは到達できないセールスコピーの世界
相手の心理や思考パターン、認知モデルを意識したセールスコピーの制作は、現在の生成AIではまだ難しいため、人の手が不可欠です。
セールスコピーのアイデアを練る際の相談相手としては、生成AIは非常に役立つツールであるため、生成AIによる広告コピーは参考程度に留めるのが良いでしょう。
メタモデルやミルトンモデルを応用した広告訴求の制作に興味がある方、またこれらの手法を学びたい方は、ぜひ当社にお問い合わせください。小さな行動(投資)から大きな価値を得ることができます。